ブロードウェイリバイバル版『Les Miserables』 プレビューレポ [観劇レポ]

Imperial Theatreで上演中の『Les Miserables』のリバイバルを観て来ました。

映画版でさらに新たな客層を得た『Les Miserables』がリバイバル、しかもRamin Karimlooがバルジャン、Will Swensonがジャベールを演じる等豪華キャストも注目の今シーズン期待のリバイバル作品の一つなので観客の熱気が凄かったです。

あらすじは映画や日本で舞台を観られた方も多いと思うので省いて、さっそく本題に入りたいと思います。
まず言いたいのはブロードウェイ仕様に編成された大規模のオーケストラの物語を演出する音質が素晴らしかったです、やっぱりミュージカルはこうじゃないといけませんね。
そんな中でRamin Karimlooが”What Have I Done?"を歌い切った時の観客の熱気からして新しいブロードウェイのスターが生まれた瞬間を観たと思いました、また"Bring him home"も素晴らしくあんな美しい"Bring him home"は観たことがないです、暫く他の音を耳に入れたくなくなる様なラストのファルセットに皆聴き惚れていました。

Will Swensonのジャベールは最初は歌声や立ち振る舞いがただ高圧的なだけに見えてしっくりこなかったんですが弱さを内に抱えながらもそれに打ち勝とうと信念を立ててすがるような強さをみせてるんだと徐々にわかって来て強さと弱さの両面を絶妙なバランスで演じていると感じました、またその姿を観て来ての最後の"Soliloquy (Javert's Suicide)"は痛いほど突き刺さって来ました。

他のキャストではアンジョルラスを演じたKyle Scatliffeが今まで観たどのアンジョルラスよりも芯のある男らしいアンジョルラスで赤い炎と言うよりも見た目は落ち着いてるけど触れたら赤よりも熱い青白い炎の様な印象で力強いテノールと堂々とした立ち振る舞いにグングン引き込まれ、これは着いて行く魅力があるなと納得です。

これがブロードウェイデビューとなるAndy Mientusのマリウスは無邪気なマリウスで演技の端々に小悪魔感を滲みださせていて"Bring him home"の「he is only a boy」って歌詞がしっくり来ました、これはコゼットもエポニーヌも惹かれるなっていう感じです、しかし革命が迫るにつれどんどん精悍な顔つきに変わって行き“Empty Chairs at Empty Tables,” のシーンでは仲間との誓いや生き残ってしまった自分を想いしっかりと歌い切って感動しました。

『Les Miserables』を語る上で外せないのがテナルディエ夫妻ですが、Keala Settle&Cliff Saundersの二人はカナダから連れてきた理由がわかる最高に良い顔とチャーミングかつ不謹慎なパフォーマンスをするテナルディエ夫妻で劇場を爆笑させていました。

キャストの死の演技が見事で前にも書きましたがジャベールは内からの崩壊が観ていて痛いほどで、バルジャンの老い方も見事でしたがなんと行っても今回はガブローシュを演じたJoshua Colleyが死ぬ時に目と口を開けたまま全然動かないのでもの凄く死を感じました。

演出は25周年ツアーや各国での新演出版公演を経てプロジェクションマッピングなどを使うもののそれが前面にでる訳ではなく無駄が削ぎ落とされた演出になっていたと思います、ただ無駄が削ぎ落とされたが故に俳優のパフォーマンスが剥き出しになり力のある人はそれがダイレクトに伝わり良い効果をもたらしますが、力のない人は大惨事になりかねない危うさを感じました、これは今回のリバイバルがロングラン出来るかの鍵になって来るのではないかと思います。
他にはバイオレンス描写や堕ちたものへの唾吐きや暴言が容赦なく悲劇がガツンとくる見せ方やファンティーヌの口を押さえながら出てくる"Lovely Ladies"の時の歯を抜かれた描写や"Little Fall of Rain"のマリウスからエポニーヌへの小さなキス、ガブローシュとクールフェラックスとの友情、アンジョルラスとクールフェラックスの関係もちゃんと描かれている細やかなストーリーテリングも抜け目なしです。

しかし重箱の隅をつつく様な事をあえて言うとすれば自分は新演出版を日本で観ていたのでどうせブロードウェイでリバイバルするなら映画で追加された楽曲”Suddenly”を入れるとか、ジャベールが亡くなったガブローシュの胸に勲章を置く誰もが感動したシーンを入れるとかして欲しかったです、また照明や最初の船を漕ぐシーンの動きの微妙なズレやリトルエポニーヌとエポニーヌの人種は合わせた方が良かったのかな?けど養子って設定に変えた可能性もあるなと思ったりする等の細かな気になる所はありましたが、
オープンまでには修正し観客にも劇評家にもWelcome Back!!と言ってもらえる出来になっていると信じています。

『If/Then』 プレビュー初日レポ [観劇レポ]

Idina Menzel主演、『Next to Normal』のTom Kitt&Brian Yorkeyコンビ最新作と今シーズンオープンする新作の中でも一番の注目作『If/Then』のプレビュー初日を観て来ました。

この作品は無限の可能性がある街ニューヨークで人生を再スタートさせようとしているElizabeth(Idina Menzel)が人生の中で出会うチャンスや選択の交差点に立ち選んだ道・選ばなかった道を巡る物語でリアルな実在感のある登場人物達がリアルな会話とスタイリッシュな音楽・振り付け・ステージング・演出で身近な「今」を描いた作品です、またリアルだからこそ観る人の歳や性別や職業などで様々な視点で観れる作品なのかなと感じました、自分が登場人物と同じ様な年齢になった時にはきっと受ける印象も変わって行くんだろうと思います。

とにかく観客の今回はどんなのを観せてくれるんだ?って言う期待の高さが始まる前の客席から滲み出てる様なハードルが上がりまくりの状態で今回のニューヨーク滞在中に今まで観たどの作品よりも観客の熱かったです。

まず、客席について目に入って来るのは朝焼けの様な青と優しい緑のグラデーションのバックライトで照らされ椅子と小さなテーブルが置かれた一階とアパートの階段と木々が生い茂った二階の二段構造になっている独特なセットで正直開演前はどう展開してくのかイメージがあまり湧きませんでした、しかしこのセットの展開が実にスタイリッシュでした、これはまた後で書きたいと思います。

あの時のあの決断・選択をしていたらどうなっていただろうか?と言う誰もが考えることを重層的・同時並行的な目線で観客に見せる演出で、物語が進行して行きながらももう一つの決断・選択をした世界を想像してしまう独特な構築のされ方の舞台でした。
とにかく大きな物語ではなく今世界中で毎日起きている様な選択・決断を描いてる作品だからセリフも日常会話でしそうな生きた言葉で自然だし登場人物も周りにいる様な普通な人達だから、あれは自分だ、あれはあいつだって身近にいる誰かとダブる所が沢山あって登場人物と観客の心の距離がとても近い。だからこそ登場人物の喜怒哀楽に観客がビビッドに反応し、選択や決断をする時自分ならどうする?と考えさせる物語に引き込み参加させる力がありました。
それもBrian Yorkeyのリアルな脚本・歌詞とリアルとミュージカルを繋ぎ合わせたTom Kittの音楽、さらにけしてオーバーアクティングにならず実在感を大事にしたキャストの演技のなせる技だと思います。

キャストとしてはIdina Menzelは出てきて最初はセリフを言っただけで拍手と歓声が鳴り止まなくてそれだけでショーストッパーになっててさすがスターという感じでしたが、その後はスターではなく普通の女性Elizabethにちゃんと変わっていたのが素晴らしかったです、歌も「聴かせるぞー」と力んだものではなくキチンとElizabethの言葉を伝えていて聴かせる所はキメるメリハリのあるパフォーマンスでした。

LaChanzeはパワーのある歌声と軽快なギャグでElizabethの友達の明るいレズビアンの幼稚園の先生Kateを好演していて彼女はトニー賞の助演女優賞にノミネートされるだろうなと思います。
Anthony Rapp演じるLucasはバイセクシャルのコミュニティーオーガナイザーで物語上二つの面を微妙なバランスで演じなければいけない難しい役所なんですが時にどこか可愛らしく時に深みのある顔を見せてくれて演技の引き出しの多さと独特の声だからこそのElizabethとの微妙な距離感の説得力がありました(個人的には彼に一番感情移入してしまいました)。
James SnyderのJoshは軍医でElizabethに様々な選択・決断をさせる要因になる物語の重要な鍵となる登場人物なんですが最初の登場シーンが不思議で何だ?と思ってたら最後のシーンにちゃんと繋がっていてやられたって感じです。
その他にもJerry Dixon演じるStephen、Jason Tam演じるDavid、Jenn Colella演じるAnne等魅力的な登場人物が本当に多いです。

舞台上を見下ろす様にある巨大な鏡で舞台を写すことによってこの物語の持つもう一つあったかもしれないリアルを感じさせる演出がニクいですし、四角の枠組みをキャストに一連の自然な動きで移動させたり舞台の回転を利用して多層的・同時並行的に展開する物語を語らせて行くステージングの巧みさやLarry Keigwinのユニークな動きなんだけどスッとストーリーテリングしてくる振り付け等真っ先に頭にスタイリッシュという言葉が浮かんできます。
またTom Kittの楽曲は要所要所に"It's a Sign"や"Starting Over"等ビッグナンバーがあるものの物語の多くの部分を彩っているのは抑制の効いた楽曲だったと思います、『Rocky』の時には物足りなく感じた抑制の効いた大人しい楽曲ですが今回はけして中弛みしたとは感じませんでした。『Rocky』との大きな違いは音のバリエーションの豊富さと観客の心と地続きの様に感じられる歌詞の世界の共有感でこの二つがちゃんとあったからこそ崩れず成立していたと思います。

当たり前だけどBrian YorkeyとTom Kittも観てて、特にBrianさんは終演後音楽が流れる中一生懸命何かメモしていたのでプレビュー中にまたブラッシュアップされて行くのが楽しみです。



『Rocky』観劇レポ [観劇レポ]

Winter Garden Theatreでプレビュー公演中の『Rocky』を観て来ました。

この『Rocky』は1976年にJohn G. Avildsen監督、Sylvester Stallone主演・脚本で大ヒットした誰もが知ってるボクシング映画のミュージカル版で、ドイツのハンブルグで上演されてヒットした後にブロードウェイにやって来た作品です(なのであらすじはカット)。

オープニングが最高で無条件でテンションが上がってしまうロッキーのテーマが鳴り響きながら幕が上がりライトが客席を照らし鉄鋼の様な質感のセットがダイナミックに展開して行くと言う高揚感があってワクワクせずにはいられない幕開けでした。

そんなオープニングの後出て来た主演のAndy Karlのロッキーはこの役の為にトレーニングと食事制限をして素晴らしく鍛え上げられた肉体が服の上からでもわかる仕上がりでした、かつ低音の心地よい伸びのある歌声、役に合わせたイタリア訛りで哀愁と人間味のあるロッキーを好演していました。
またヒロインのエイドリアン役はMargo Seibertが演じていて最初出て来た時は全然魅力的に見えなかったんですが徐々に話と共にエイドリアンが変わって行くとどんどん魅力的になって行ったので驚きました。
そんなAndyロッキーとMargoエイドリアンは最初はぎこちない関係でしたが、この二人が初めてデートするシーンやクリスマスに二人でクリスマスツリーを飾り付けながら”Happiness”と言う曲を歌うシーンは静かだけどほわっとあったかい観ていて幸福感が溢れてる良いシーンでした。

そう言ったあったかいシーンも良かったですが何と言ってもこの作品は生卵を飲んだり、肉屋の倉庫で肉を殴ったり、階段を駆け登る”Eye of The Tiger”が流れながらのトレーニングシーンやボクシングシーンの血湧き肉踊る男なら誰もがテンションが上がってしまうこの二つの場面が見所です。
トレーニングシーンではシーンでは映像・照明・舞台装置・ダンスを巧みに使ってランニング・縄跳び・懸垂・腕立て・シャドウ等のボクシングのトレーニングをスタイリッシュにカッコ良く演出していました。
ボクシングシーンでは前5列ぐらいの観客を舞台上に上げて、その観客がいた席の所まで試合が行われるリングがせり出してくる演出でみんな興奮してましたしリングの四方を観客が囲んで本当のボクシングの試合の様でした、また細かく動き振り付けがしてある様で相当稽古しなきゃ出来ない凄いシーンです。
実際に体にパンチを当てるし汗は飛ぶし血は流れるしなかなか迫力があり男ならテンション上がらずにはいられないシーンになっています、しかし完璧なボクサーの動きとは言えず少し消化不良の感は否めないかなとも思います、スローモーションを多用する演出も確かに幾つかはとても効果的でしたが個人的にはボクシングシーンのスピード感・力感をもっと味わいたかったです、発展途上でまだ改善の余地がありそうなので、もちろん舞台上でボクシングをやると言うのはとてもチャレンジングな事だと思いますがプレビュー中にしっかり仕上げてオープンを迎えて欲しいです。

楽曲はロッキーとエイドリアンが歌う"Happiness"や"My Nose Ain't Broken"などメロディーが優しく落ち着いた良い曲があるんですが全体的には曲のパンチが弱く少し物足りなく感じました、"Fight From The Heart"や"Keep on Standing"も悪くはないんですが映画からのロッキーのテーマや"Eye of The Tiger"のインパクトが余りにも強く新しい楽曲の影が薄まってしまっているようでした。

個人的に男なら誰もがググッと内から熱く湧き出てくるものがあって、さらに今ブロードウェイで一番仕上がった肉体美を堪能出来る舞台だと思います、しかし全体的なバランスで言うとまだちょっと荒削りな感じがするのでロングラン作品になるかはクエスチョンマークです。


『PIPPIN』 レポ [観劇レポ]

Music Box Theatreで上演中の『PIPPIN』を観て来ました、個人的に今まで観たミュージカルの中でエンターテイメント性で言ったら抜群の1位の作品でした

現在上演中の『PIPPIN』はリバイバルでオリジナルは1972年に上演された作品です、あらすじは紀元8世紀後半のローマ帝国の後継者ピピンは優秀な成績で大学を卒業し城に戻って来る、しかし大学も城も自分にしっくりくる場所ではないとピピンは感じ、何か特別な意味のある人生を送りたいと考え自分の魂が自由になれる場所「Corner of The Sky」を探す旅に出ます。
ピピンは戦争・芸術・信仰・女性様々なものを体験していくが満足できず、なかなか「Corner of The Sky」を見出すことはできません、ピピンが最後にたどり着く「Corner of The Sky」とは・・・・

なんと言っても今回のリバイバルでは演出のDiane Paulusによって新たに加えられたモントリオールのサーカス団「les 7 doigts de la main」のサーカスとミュージカルの融合が素晴らしく1972年に上演された作品を新感覚のミュージカルに生まれ変わらせていました。
またDiane Paulusの演出による今回のリバイバルでは設定が旅芸人の一座からサーカス団になり"Magic""extraordinary"と言った部分が今リバイバルした事によるスケールアップを果たし、リーディングプレイヤーが男性から女性に変わった事によってピピンへの新たな視点が加わった様に思いました。

サーカス・マジック・ミュージカルが合わさってあの手この手で色々な角度から楽しませてくれて、オリジナルカンパニーで演出・振り付けをした伝説のダンサーBob Fosseの弟子でフォッシースタイルの継承者Chet Walkerの創造性とウィットに富んだ振り付けも素晴らしくシーン毎に拍手が自然と湧き上がって観ていて驚きと高揚感で堪りませんでした。
特にオープニングの”Magic to do”で幕が下りた瞬間に現れるサーカスのテントのカラフルな舞台美術とアクロバティックに動き回るキャストのインパクトは一瞬で観客の心をガシッと捉え一気に別世界へ引き込まれます。

キャスト陣の中ではやはりリーディングプレイヤーのPatina Millerの存在感が素晴らしく彼女の鍛え抜かれた肉体の緩急の効いたダンス、パンチのある歌声を体験するだけでも観に行く価値です。
あとBerthe役のAnnie Potts(61歳)が”No Time at All”のシーンで観客を巻き込んで一緒に歌って、さらに61歳で命綱無しで空中ブランコで曲芸を披露してとお客さんを大いに盛り上げてショーストッパーになっていました。

Theatrical Magicとは目の前で起こってるまさにこのことだと感じさせてくれる舞台でした、またその舞台の魔法に溢れた煌びやかさが素晴らしいからこそ全てが剥ぎ取られむきだしになったラストがカウターパンチの様に効いてきてハッとさせられます。

今回観てみて子供が大人になる通過儀礼をオリジナリティ溢れる方法で色彩豊かに描いた作品だと感じました、またこの超ハイレベルな舞台を1年近くやり続けてるブロードウェイのキャスト・スタッフに心から拍手、超オススメです。

何回でも観たいな

脚本:Roger O. Hirson
作詞作曲:Stephen Schwartz
演出:Diane Paulus
振り付け:Chet Walker
サーカスクリエイション:Gypsy Snider
セットデザイン:Scott Pask
コステュームデザイン:Dominique Lemieux
ライティングデザイン:Kenneth Posner
オーケストレイション:Larry Hochman
サウンドデザイン:Jonathan Deans and Garth Helm




『A Gentleman's Guide to Love and Murder』 レポ [観劇レポ]

ニューヨークに来て一本目の舞台『A Gentleman's Guide to Love and Murder』を観て来ました。

この作品は1907年に出版されたRoy Hornimanの小説「Israel Rank: the Autobiography of a Criminal」がベースになってるミュージカルで19世紀のロンドンで貴族の血を引いていながらもそれを知らず一般人として暮らしていたMonty Navarro(Bryce Pinkham)がある日、自分に伯爵の地位継承第9位の権利があると知り継承順位上位8人を殺して伯爵の地位に就こうとする物語です。
こうあらすじを読んでみると陰惨な話に見えますが、ここにMontyを取り巻く女性達が現れたり、Jefferson Maysが一人で演じる8人の個性豊かな継承順位上位8人が絡んで来る事によってコメディーに仕上がっているのがこの舞台の面白い所です。

まず、劇場に入ってすぐに目に入って来る舞台美術はシェイクスピアを上演するようなクラシックな雰囲気の舞台だけど映像を上手く使ったり忍者屋敷の様にぱかっと動く仕掛けがあったり楽しませてくれるギミックが沢山で遊び心満点の舞台でした、さらにそのギミックを使ってワザと車輪で動いてるのがわかるようにゴロゴロ音を鳴らしたり手紙が届いた時にバタンって音と一緒にポストから手が出てきて手渡したりと滑稽さを感じさせる演出を衒いもなく入れてくるのが潔くてコメディーを観てる楽しさ・喜びがひしひしと感じられました。

Steven Lutvak作曲/作詞・Robert L. Freedman作詞の楽曲は昔ながらのブロードウェイというようなキャッチーで楽しい曲ぞろいなのに歌ってる内容は毒の効いたギャグ満載でそのギャップに口角が自然に上がってしまいました(特にPoison in My Pocket、I Don't Understand the Poor、I've Decide to Marry youは場内爆笑です)

この作品ではなんと言ってもJefferson Maysの1人8役の演じ分けが見所だと思います、それぞれめちゃくちゃ濃いキャラの振り切った演じ分けが見事で、動き・顔・話し方でとても細かくキャラクターごとに違った笑いのポイントを出してくるので引き出しの多さに感服です(殺されっぷりもたまりませんでした)。
さらに殺されては次の役で出て来る時の早着替えもどうなってんだ?って思う位凄かったです。

全編を通してギャグの手数が多く2時間20分の間笑いが溢れていて、しっかりと伏線を回収してさらに意外性もあるラストも心地良く、さらにカーテンコールでも最後の最後でまだネタを放り込んでくるので、もう大満足で劇場を後に出来ました。

日本で上演してもウケる事間違いなしの上質なミュージカルコメディーだと思いました。

『華麗なるミュージカル クリスマスコンサート』 [観劇レポ]

新国立劇場で上演中の『華麗なるミュージカルクリスマスコンサート』観て来ました、キャストや歌われた曲はホームページに載っているので感想だけ書きたいと思います。

シンプルで無駄が削ぎ落とされた舞台美術と演出でミュージカルの楽曲を聴いてもらうと言う点に集中していたのでキャストのパフォーマンスの迫力・魅力がダイレクトに体感できるミュージカルコンサートでした、また構成が楽しくて「あの人があの曲を!!」とか「この人が歌ってるこれを聴きたかった」みたいにミュージカルファンの心を掴む展開(意図的な外しもあり)で終始ワクワク・ニヤニヤ出来ました

アダム・パスカルゆかりの作品の曲のコーナーでは個人的にKander&Ebbが特集されてたのが嬉しかったです、欲を出せばアダム・パスカルの"Willkolmen"も聴いてみたかったし男性アンサンブルのみなさんももっと観てみたくなる魅力的なキャストだったのでKander&Ebbの最後のコンビ作『The Scottsboro Boys』の"Commencing In Chattanooga"を男性アンサンブルでやってみて欲しかったです、コンサートならこのこの作品の曲を日本人でも出来るので観てみたいと思いました。

キャストの歌声には文句無しで構成も楽しかったので次回はコンサートでしか出来ないチャレンジで驚かして欲しいです。

ミュージカル『Song Writers』 観劇レポ [観劇レポ]

シアタークリエで上演中のミュージカル『Song Writers』観て来ました。
散らかって入るけど一つ一つ見ると楽しいおもちゃ箱をひっくり返した様な楽しいミュージカルでした、個人的にはポスターの様なスタイリッシュさは無くて最後まで力技で押し切られた感じです。

照明がギュンギュン動くし、キャラクターがそれぞれ濃いし、メタ語りや小ネタの手数も多くてしっちゃかめっちゃかで散らかってるんだけどキャストのみなさんの力で世界観が崩れないからその散らかり方が熱量の塊になって飛んでくる感覚でした、またプロジェクションマッピングを使っての舞台展開がギミック感があって現実と虚構の境界線がどんどん曖昧になって行くストーリーにハマっていたと思います。

また観ていて岸谷五朗さんと森雪之丞のミュージカル愛が感じられる所が幾つもありました、例えばキャバレーの名前がプレイビルだったりプロデューサーの名前が『プロデューサーズ』の登場人物と同じのマックスとレオだったりと劇中にミュージカル好きなら気がつくネタが色々と転がっているので出て来る度に心の中でニヤニヤしちゃいました。
とここまで書いて来た様にとにかく小ネタが多いんですけど一幕目はまだバランスが取れてる感じでしたが二幕目はもうやっちゃえ?ってたがが外れて小劇場臭溢れる強引に笑わせにくるユーモアが氾濫してるように感じましたし説明の為に文字を壁に映したり、着ぐるみ来たり、忍者とカンフーとインディアンの戦闘シーンを強引にねじ込んだりちょっとやり過ぎな演出かなと思いました、個人的には一幕のバランスがちょうど良かったです。

音楽は作曲者が複数いる作品だからどうなるかと思ってたら少し空気感が違うかな?と感じる曲があったものの全体的にはまとまっていたと思います、その中でもWEAVERの杉本雄治さんが作曲したテーマソングの"Song Writers"が本当に耳に残るパーッと気持ちを明るくしてくれる曲で、最後にキャスト全員で大合唱された時なんてそれだけで100万点です。
この曲だけでも音源を売って欲しいです。

最初から最後まで振り切った演出とキャストの熱演で押し切ってくれるので観た後にさわやかな楽しさが残る作品でした、オススメです。

『next to normal』 観劇レポ [観劇レポ]

シアタークリエで上演中のミュージカル『next to normal』を観て来ました。

客席に行くとすぐにあの素晴らしいデザインのセットが目に入って、シアタークリエの劇場の規模と相成ってOff-Broadwayから駆け上がって来たこの『next to normal』と言う作品がその雰囲気そのままやっと日本にもやって来てくれたと大興奮しました。

あらすじとしては、一見幸せそうな「普通」の家族に見える父親のダン、母親のダイアナ、娘のナタリー、息子のゲイブのグッドマン一家、しかしグッドマン一家の母親ダイアナは息子に関わるある事をきっかけに16年間もの間双極性障害に苦しんでいた、そんなダイアナをダンは支え治療しようと努力し、ナタリーも優しく接してはいるが生まれてから母の愛を感じることが出来ず、家族から心が離れていた。
そんななかなか治療が上手く行かない中ある事件が起き・・・・・っと言う様な感じで、何が正しいのか何が正常かを投げかけられて考えの軸が振り子の様に揺れ動く舞台で観終わったその後にもそれが止まらない力があり、受け入れ許す強さを教えてくれる作品だと思いました、本当にキャスティングがぴったしでこのキャストで観れて良かったし完璧に自分の中に住み着かれました。

生演奏で聴くトム・キットの豊かな表情のある楽曲の数々が素晴らしくて感情を支配される感覚に度々襲われて、最初の"Just Another Day"から心を持って行かれました。
その楽曲に加えて上着を脱ぐタイミングや柱を触る場所や裏を通るタイミング、シンクロする動き、繰り返される音や色を巧みに使って聴覚や視覚からも脳に訴える仕掛けなど本当に細かく繊細な演出でそれぞれがカチッと連動しあってグングン引き込まれて感情が揺さぶられました、本当に演出のマイケル・グライフは天才です。
また細かく繊細な演出の危うい雰囲気の中で感情が爆発する演技があるから、ガンっとぶん殴られた様な衝撃で劇中ずっと釘付けでした、その中でもゲイブのシーンはより危うさが増していてより激しく美しく感じました(I Dreamed A Dance〜There's A WorldやI Am The One Repriseは特に美しかったです)。

あと、一つどうしても気になった所があって登場人物達が度々手にする本は一体なんの本を読んでいるのか凄い気になりました、知ってる人がいたら教えて下さい。

日本にトニー賞みたいなものがあったら総ナメにしてるだろうなと思うほど自分の中では今年観たミュージカルの中でダントツ一番の作品でした、これを見逃す手は無いです、あと5回くらい観たい!!。


ミュージカル『SEMPO』 レポ [観劇レポ]

新国立劇場中劇場で上演中の吉川晃司さん主演のミュージカル『SEMPO』を観て来ました。

主演の吉川晃司さんの低音の響きの力強い歌声、落ち着き深みのある演技が素晴らしくただただ凄い存在感でした、あと坂本健児さんも安定感のある伸びのある歌声や恋人を想う姿や時代に翻弄されて汗や涙にまみれてもがく姿も感動的でさすがでした。

ミュージカル『SEMPO』は第2次世界大戦のさなか、ナチスの迫害を逃れてリトアニアへ逃げて来たユダヤ人にビザ発給をして約6千人もの命を救った、当時リトアニアの日本領事代理をしていた世界中のユダヤ人から日本のシンドラーと呼ばれている杉原千畝の物語です。

杉原千畝の事は前から知ってはいましたが、ユダヤの人々をナチスの迫害から救う為にビザを書いたと言う情報だけであまり具体的にどんな人物だったのか、またどういった状況下だったのかを知らなかったので、このミュージカルを通して杉原千畝の人柄やビザを発給する時の日本と世界の情勢、ユダヤの人々の置かれていた状況や当時の感情が体感できてより立体的に彼のした事の意味や「私の一存で彼らたちを救おう。そのために処罰をうけてもそれは仕方がない。人間としての信念を貫かなければ」と言う杉原千畝の下した決断の根幹にある人道の清らかさや強さが心に刻まれた様に思います。

音楽は中島みゆき、吉川晃司、PETER YARINの3人の楽曲が重厚で聴き応えのあるものが多く生演奏で曲の力に圧倒されました、特に一幕最後の"光と影"は吉川晃司さんの見事としか言いようのない歌声と合いなって日本オリジナルミュージカル史に残るアリアですし、ラストにキャスト全員が歌う"NOW”は詩の言葉の強さとキャスト全員の歌声が塊となって向かってくる名曲でした。
しかしメロディーラインが難しい曲が多く聴き応えはあるが歌いこなせてる人と歌いこなせていない人がいてもったいなさがあったかなとも思います(特に秘書が杉原千畝に忠告をする歌)。

作品全体としては第二次世界大戦に入る前のきな臭い時から大戦に突入した戦乱の時代の話なので全編通して暗く重い空気が支配していて照明や舞台美術もその雰囲気を崩さない様にしてるのは見事なんですが、あまりにも暗く重くなり過ぎて劇場の空気もズンっとしているので時々狂言回し的な役割をするポーランド人にもう少しひょうひょうとした要素を入れるとか、一幕目のハヌカのシーンで音楽を演奏してる所で明るい曲を一つ入れると、暗く辛い時代でもその時の幸せ楽しさがあったって事を描けて、ユダヤの人々により人間臭さが感じられる様になって、さらにそのささやかな時をも失われてしまったって言う悲しさが生まれて作品がより豊かな顔を持ったものになったんじゃないかと思いました。
けど二幕目のビザを書くのを決心してからのひたすらビザを書き続けるシーンは命を削って書く杉原千畝と命を繋ごうとするユダヤの人々の命を掛けた人々の気力の塊が鬼気迫る迫力でしたし、幕に描いてある杉原千畝が書いたビザの絵で彼が救った命の数が感じられる等の演出も杉原千畝の生き方や、あの状況下で命を救う選択をした気高い心を誠実に描いていて心に響く日本のオリジナルミュージカルの中でも指折りの素晴らしい作品だと思います。



『リトルマーメイド』 観劇レポ [観劇レポ]

劇団四季の『リトルマーメイド』観て来ました、時間がとても長く感じられて一幕目で帰りたくなりました。

音がカラオケで薄いし小さくせっかくのアラン・メンケンの音楽が台無しで、全編を通してミュージカルである意味が感じられませんでしたし「アンダー・ザ・シー」があんなに盛り上がらないと思いませんでした(あれじゃとてもショーストッパーにはならないです)。

なにより問題だと思ったのは脚本で、いくら情報量が減ると言っても余りにも不誠実な訳詞だと思ったし、説明不足で話がどんどん飛ぶから登場人物に全く感情移入が出来ず描き込み不足が浮き彫りになっていたと思います。
これだけの脚本だと基の脚本から問題があったとしか思えません、スクリプトドクターはいなかったのかってツッコミを入れたくなります。
特に酷かったのはエリックで国王が死んだ国の王子なのに国のことを全然考えないでただ海で航海したい無責任な馬鹿に見えました、せめて国の事を思いながらも自由を求めたいって気持ちを出して欲しかったです。

またキャラクターが物語をメタ的に捉えたギャグや海中ギャグを言うのは良いけど手数が多過ぎてノイズになってしまうし、ギャグを自分で説明しちゃったり作品の中でのリアリティラインがぶれぶれでした。
ファンタジー作品だから現実のリアリティに合わせなくても良いから作品の中でのリアリティラインはしっかり作ってくれないと『え、あそこはああ言う事だったのに今はそうなっちゃうの?』みたいな困惑が度々出てきて正直、登場人物の気持ちも世界もとても理解に苦しむし心が感じられませんでした。

舞台セットも波や岩場や城など様々な物が書き割りで描いていてなんの工夫もなく『学芸会かっ!!』て思いました、またそのペラペラのセットや何もない海中でフライングをするので前後の動きがなく舞台の奥行きを殺したスカスカの空間になってしまっていました。

衣装はライオンキングが制作されると発表された時に言われてた『着ぐるみを俳優が着て歌って踊るだけじゃないの?』って言う声をジュリー・テイモアが打ち出した革新的な衣装でその声を覆したのと対象的にそのままやっちゃったみたいな工夫の感じられない衣装でよくライオンキング以降にこれをやったなっていうクオリティでした。
ただ魚のパペットとアースラの衣装は見応えがありましたし、谷原志音さんのアリエルは声も綺麗で可愛らしく役に合っていたし村 俊英さんのトリトンは貫禄たっぷりでした。

もう、よほどの事が無い限り四季のミュージカルはいいや。

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