映画『シュガーラッシュ(Wreck-It Ralph)』 レポ [映画レポ]

『ザ・シンプソンズ』シリーズのリッチ・ムーア監督のディズニー映画『シュガーラッシュ』を観て来ました。
凄く巧みに練られた物語で面白かったです。

あらすじは『Fix-It Felix』って言うアメリカで長年親しまれて来たゲームの悪者キャラのラルフがいつもゲームの設定通りにビルを壊してはヒーローのフェリックスがそれを直して行くって言う生活をして行く中で悪者もヒーローもゲームには必要不可欠な存在なのにヒーローのフェリックスはいつもメダルをもらって、みんなに優しくされて、良い家に住んでいる、けどラルフはビルを壊しても何ももらえない、みんなに怖がられる、家は自分で壊したビルのがれきの山って言う状況でラルフはヒーローになればその状況が変わるんじゃないかと思っていたけど何も出来ないくすぶった日々を過ごしていた、けれどある事がきっかけでラルフは自分のゲームではなく他のゲームの世界に飛び出して行く・・・・、そこでお菓子の世界で繰り広げられるレースゲーム「シュガー・ラッシュ」に迷い込み、欠陥プログラムだからと仲間はずれにされてレースに出させてもらえないヴァネロベに出会って孤独な二人に友情が芽生え、「シュガーラッシュ」に潜む闇に立ち向かって行くって言う話です。
ここまでだけだと単なるお子様向けで大人には楽しめないと思われちゃうと思うんですけど、この映画は大人にも訴えかけてくるポイントがちゃんとあって、ラルフは自分と同じ様に仲間はずれにされてるヴァネロペを助けてあげる事で自分もヒーローになれるしヴァネロペも救えると思ってヴァネロペがレースに出れる様に手助けしてあげようとするんですけど、そこに『シュガーラッシュ』の世界を治めてる王様が来て『君はなぜ、私たちがヴァネロペをレースに出さない様にしてるのかわかってるのか?、もし彼女を出してしまうとゲームをしている途中にバグが発生してプレーヤーが故障だと思ってお店の人に言って電源を抜かれてこの王国が終わってしまうじゃないか、だから彼女を仲間はずれにするのはその他の多くの王国の民を助ける為にしているんだ』とラルフが今しようとしている事は正しい事じゃないだと言ってきます、そこでラルフが悩んでどういう行動をとるのか、また正しい事『正義』ってなんなのかって問われる物語でもあるんです。

ゲームセンターのゲーム達が閉店と共に彼らの第二の生活が始まるっていう設定はトイ・ストーリーに通じるものがるし、どちらも子供の時に親しんできたゲームとおもちゃを通して大人にはノスタルジー、子供にはワクワク感を感じさせてくれるファンタジーになっていると思います、それと同士に今回の『シュガーラッシュ』は主人公のラルフのゲーム『Fix-It Felix』がドット絵の2012年公開の今作品で30周年なので1982年のゲーム、そしてラルフがヒーローのメダルを手に入れる為に紛れ込むゲーム『Hero's Duty』が最新型のゲームで、ヴァネロペのゲームの『Sugar Rash』はおそらく90年代でそれぞれ違う年代のゲームを一本の映画の中で冒険できる楽しさとそれぞれの年代のゲームのキャラクターの動きの違いや(『Fix-It Felix』のキャラクターの動きがカクカクしてたり)、ゲーム間のルールや雰囲気のギャップギャグや(ラルフが『Hero's Duty』に行った時の「いつからゲームはこんなに暴力的になったの?」って言ったりする)キャラクターの特殊能力ギャグ(フェリックスが牢屋に閉じ込められた時に牢屋の鉄柵が壊れそうな所を魔法のハンマーで殴って壊そうとするけど逆に直っちゃう)等物語中に本当に細かく細かく色々な布石や仕掛けがいっぱいでした。

吹き替え版で観たんですけど原語版がラルフがJohn C. Reilly、ヴァネロペがSarah Silverman、フェリックスがJack McBrayer、タモラ・ジーン・カルホーン軍曹がGleeのJane Lynchとこっちも魅力的なキャストなので原語版も観てみたいです。

大人も子供も楽しめる予告編のトイ・ストーリー3以来の傑作っていうのも嘘じゃない楽しい映画でした、オススメです。

ここで映画の脚本が英語だけどフルで読めます。
http://waltdisneystudiosawards.com/downloads/wreck-it-ralph-screenplay.pdf

映画『人生、ブラボー!』 レポ [映画レポ]

ケン・スコット監督の様々な映画祭で観客賞を受賞したカナダ映画『人生、ブラボー!』を観て来ました。
若い頃に金を手に入れる為に693回も精子提供をして、知らないうちに533人の子どもの父親になっていた男の嘘の様な実話を笑いあり涙ありの映画にしたもので(『ドナー、アンノウン(Donor Unknown)』って言う題名のドキュメンタリー映画もあります)、もうハリウッドでのリメイクが決定してる作品です。

原題は"Starbuck"で(原題のままで良いと思うんだけどなー)主人公が精子提供する時に使ってた偽名なんですけど、その主人公の本名ダビッドが大麻の栽培の為に8万ドルの借金してて、しかもその栽培に失敗するは仕事はまともに出来ないはの42歳のいい加減なダメ男なんです。
そんな主人公にも彼女がいて、ある日彼女に子供が出来た事が発覚するんですけど今までずっとほったらかしにしてたので『電話一つくれない、あんたが父親なんか耐えられないから一人で育てる』って言われる始末です。そんな父親失格だと言われたダビットのところにある日、弁護士が来ていきなり過去にした精子提供で生まれた533人の内の140人ぐらいの子供達が『自分のホントの父親を知る権利がある』って裁判所に訴え出て来たと言われてからが面白かったです、最初は子供達のリストをもらっても『俺の子供じゃない!!』って言ってゴミ箱に捨てたりしたんですけど、やっぱり自分の子供だから気になって一枚だけランダムに封筒から出してみたら、その子供がプロのサッカー選手で試合を観に行ったら大活躍してて自分のDNAがプロサッカー選手になったってダビッドは大喜びして、他の子供も観たくなって次々こっそりと観に行く事にします、そこからオムニバスの様に子供達のエピソードが始まります。
例えば他の子供達は売れない役者やジャンキーの女の子や酔っぱらいやストリートミュージシャンやプールの監視員やスーパーで働いてる子やちょっと変わったいじめられっ子や重度の障害を持つ子等様々でダビッドは自分の子供だとわかってるから応援したり助けてあげたりしてしまいます、その時に子供になんで親切にしてくれるの?って聞かれた時のダビッドのどぎまぎした感じが面白いやら歯がゆいやらでした。
それでダビッドは名乗り出たいと思う様になるんですけどヤクザに借りた8万ドルを返す為に偽名を教えた病院に対して訴訟を起こしていたので名乗り出れないって言うジレンマに陥ってしまってどうなるのか?って言う映画なんですけど最後に向かってちりばめられた伏線や子供達とのエピソードがググググっと盛り上がって行く感じが凄い楽しかったです。
オープニングで流れる映像に注目して観ると後々の展開とリンクして面白いと思います

(こっちは『ドナー、アンノウン(Donor Unknown)のトレイラー)

映画『世界にひとつのプレイブック』 レポ [映画レポ]

デヴィッド・O・ラッセル監督の『世界にひとつのプレイブック(SILVER LININGS PLAYBOOK)』観て来ました。
プレイブックって言うのはアメフトの戦術が書いてある本の事で、SILVER LININGSは『銀の裏地』って言う意味でアメリカのことわざにある『どんなに曇っていていても、その雲の裏側は太陽によって輝いているはずだ、それは銀の裏地なんだよ』っていうどんな時にも希望はあるよって言う意味があることわざから来ています。

ちょっと変わったラブコメで観た後に駄目な所を許せる優しい気持ちになれる映画で面白かったです。

妻の浮気が原因で浮気相手をボコボコにして職を失い精神のバランスも崩してしまって躁鬱病になったすぐにキレてしまうパット(ブラッドリー・クーパー)と夫の死が原因でこちらも精神のバランスを崩して職場の人全員と関係を持ってしまったティファニー(ジェニファー・ローレンス)の心に傷を負って精神病院を退院したばかりでセラピーに通っている二人が出会った事によって始まる再生の物語です。
このすぐキレてしまう男の話を撮影現場ですぐにブチギレて一時期ハリウッドからカラッカラに干されてたデヴィッド・O・ラッセルが監督してるって言うのが、また感慨があります。

パットを演じるブラッドリー・クーパーとティファニーを演じるジェニファー・ローレンスの掛け合いが時に可笑しく、時にグサッと来て脚本がとても魅力的でした。
二人共演技が素晴らしかったんですが、特にジェニファー・ローレンスが一本の映画の中で色々な顔を見せていて凄かったです(さすがアカデミー主演女優賞!!)
パットはずっと何かある度に浮気された奥さんのニッキの事を口にして過去にとらわれているんですが(パットにはニッキへの接近禁止令が出てる)、ティファニーが立ち直るために出場しようとしていたダンスコンテストにニッキに手紙(この手紙の返事が後に大きな意味を持ってくる)を渡す事を手助けする代わりにパットにパートナーになってもらってからの二人のおかしな、不思議な関係が可笑しいし、二人の精神の様に不安定でむず痒くて『どうなるんだろう?』と色んな感情が入り交じりながらいつの間にか入り込んでいました。
この映画だとパットとティファニーと言う病院で精神のバランスを崩したと診断された二人が軸に描かれていますが、彼らを取り囲む家族や友人や周りの人々も多かれ少なかれどこかバランスがおかしくなっていたりしていて、『ああ、誰もがこうなりうるし欠点を持っているよな』と思いました、例えばロバート・デ・ニーロ演じるパットのお父さんは短気でやたらとジンクスを気にする人だったり、シェー・ウィガム演じるパットの友達のジェイクも夫婦中が上手く行かないし仕事もあって子供も生まれてと色々なプレッシャーに押しつぶされそうになって少し精神的に来てしまっていたりしています。
けどパットとティファニーをはじめ周りの人も救われる自然に笑顔になる様なラストで観ている人の心もスッキリ出来る良いラストでした。
パットのお父さんが事業を失敗してスポーツ賭博で儲けようとして、それがラストに大きく絡んで来るのでフィラデルフィアにあるMLBの野球チームのフィリーズとNFLのチームのアメフトのイーグルスの事を知ってると(ファンだと)より楽しめるかもしれません、オススメです。

映画『おおかみこどもの雨と雪』 レポ [映画レポ]

「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』を観て来ました。
去年の作品でスペインを旅してる間に見逃してしまったのですが地元に出来た名画座のおかげで映画館で観る事が出来ました、ありがたいです。

良い物を観た後は自分は観終わった後にしばらく無言でぼーっと作品の事を考えてしまうんですが今回もまさにその状態になって、とても好きな作品の一つになりました。

話は狼男(大沢たかお)と恋に落ちた大学生の花(宮﨑あおい)そして二人(?)の子供の雪の日に生まれたお姉ちゃんの雪と雨の日に生まれた弟の雨の家族の話と言うファンタジーの様な話なんですが、『おおかみこども』を育てる手探りな感じだったり、生き辛さ、人間と狼どちらで生きて行くかと言う問題だったりと作品内でのリアリティーラインがしっかりしているので、けして観ている人を置き去りにしないで作品の中に入って行けました。
これは「八日目の蝉」の奥寺佐渡子さんと細田守監督が書いた脚本の力です。

特におおかみこどもを育てる手探りで大変な感じは本当にいたらこんな感じなんだろうなーと思うほどリアルで細かな設定でした。
おおかみこどもだから生まれる時に狼の姿で生まれて来て病院の人や助産師さんをびっくりさせてしまうかも知れないから誰にも相談しないで花と狼男だけで出産するんですが、そこまでは狼男が一緒にいてくれているのでまだ大丈夫なんですが突然狼男が花に栄養のある物を食べさせようとしたのか狩りに出たまま帰らぬ人になってしまいます。
そこからは本当に誰にも相談できない『おおかみこども』を花一人だけで雨と雪を育てて行く決心をします(その時の花の涙まじりの目が良かったなー)、けどそこからがまた大変で病気になった時に小児科と動物病院のどっちに連れて行ったら良いか迷ったり、雨と雪が遠吠えして大家さんに『ペットいるんだったら、他の所に行ってもらわないとね』なんて言われたり、雪が保育園に行きたいって言い始めたりと普通にシングルマザーで二人を育てるのでも大変なのにおおかみこどもならではの問題もあって都会にいた頃の花は追いつめられていて本当に助けてあげたくなります。
その後田舎に行っても大変な生活は続くんですけど、徐々に周りの人の助けを借りて生活が出来る様になるのでホッとしました。

演出は目がとても印象的で人間と野生の度合いを目で表現していて、雨と雪の目が成長と共にそれぞれ人間的な目と野生の目に徐々に変化して行って雨と雪が人間と狼どっちの道へ進んで行っているのかが感じられました。
あと雨と雪の小学校のシーンの教室を横スクロールする様に動かして時の流れを動かす方法は凄かったです、横スクロールで動かす事によって雨と雪がどんな学校生活を送っているのかを同時に観れるし時間も動かす事が出来るので画期的だなと思いました。
この話には花が何かあると本を勉強したり、雨や雪に絵本で物事を伝えたりと本が度々出てくるんですが、ちょっと細かいですけど本棚に置いてある本が良い味を出してました、例えば『百万回生きたねこ』・『森は生きている』・『グリとグラ』があったりとそう言う細かな演出にもキュンとしてしまいました、また観てチェックしたいと思います。
あと観て思ったのは音や音楽を使った演出がとてもきめ細かくて一つ一つのシーンを良く演出していたなと言う事です。これはDVDやブルーレイで家で観ていてはこの良さは100%堪能出来ないんじゃないかと思います。
細かな演出が数えきれないほどあって情報をちょくちょく出して来るので知らぬ間に影響を受けている様な気がします。

絵もとても綺麗でリアルだなと思いました、この映画のモデルになった場所の写真を観たんですが花と狼男が待ち合わせしていた喫茶店の白十字や花と雨と雪が暮らしていた田舎の家なんてそのまんまでしたし自然の絵も映画館のスクリーンで観ると綺麗でした(個人的に雨が師匠のキツネと一緒に山を駆け回って霧を抜けた先に出てくる山の景色と雪がふってテンションが上がって雪山を走り回るシーンはスピード感もあったし観た目も綺麗だし音楽の高揚感もあってとても好きなシーンです)。

今映画館での公開館数は多く無いですが観れる方は映画館で観た方が良いと思います、オススメです。


映画『ふがいない僕は空を見た』 レポ [映画レポ]

タナダユキ監督の『ふがいない僕は空を見た』を新しく柏に出来たTKPシアター柏に観に行って来ました。
去年上映された作品で観たいとは思ってたんですけど観に行けなかったのでTKPシアター柏でリバイバル上映してくれてありがたかったです、この映画館にはこれからも通う事になると思います。
第24回山本周五郎賞を受賞した窪美澄の同名小説を「百万円と苦虫女」のタナダユキが映画化。様々な苦悩や葛藤を抱えながら生きていく人々の“生”と“性”を描く。出演は「ぱいかじ南海作戦」の永山絢斗、「血と骨」の田畑智子、「ガチバン」シリーズの窪田正孝、「ももいろそらを」の小篠恵奈、「王様ゲーム」の田中美晴、「わが母の記」の三浦貴大です。

原作の小説は5つのそれぞれ主人公の違う短編の連作なんですけど、今回はそれを一つの映画に落とし込んでいる作品です(いくつかはバッサリカットされてます)。
最初のパートの主人公の高校生の斉藤卓巳(永山絢斗)とあんずと名乗るアニメ好きの主婦・岡本里美(田畑智子)との特殊な不倫関係のパートを軸に卓巳の親友・福田良太(窪田正孝)の団地での極貧の生活のパートを絡めて映画が進んで行くんですけど、全編を通して『自分ではどうしようもない生まれつきだったり周とのしがらみ』が支配している様に思いましたし、あんずの義母の子供が出来ないあんずに対する行き過ぎたプレッシャーやある種の脅迫の様ないやがらせ、あんずと卓巳に対する世間のバッシングや目線やいたずら、福田へ次々降って掛かる飢え・貧困が『世間(界)の残酷さ』を映し出している様に感じました。そんな中にでも訪れる一時の美しい瞬間をなにか少し突き放した様な所の目線で描いているのがこの作品の独特のトーンで良かったなと思います。
映画の演出としては映画の中で時系列を組み替えて同じシーンを違う視点で観せる事によって登場人物の見え方が変わったり違う感情が生まれたりしてその度に『そうだったのか』と納得したり、やきもきしたり、『あー』と身に詰まされたりしました。
あと題名にもある空のショットもとても印象的に使われていて卓巳と福田のパートでそれぞれ映される空が両方どこか悲しげだけど受ける印象は違って見えました。
また構成も最初のパートの主人公の高校生の斉藤卓巳(永山絢斗)とあんず(田畑智子)との特殊な不倫関係のパートを半分卓巳目線・半分あんず目線で描いて次の福田の団地での極貧の生活のパートを描いて、そのふたつのパートをまとめるように卓巳の助産婦をしてるお母さんのパートへ行って着地するって言うのも142分の上映時間が長く感じない様な良い配分だったと思います。

永山絢斗さんは影のあるイケメンやらせたら最高だし、田畑智子さんの体当たりで文字通り体を張った演技もそんじょそこらの女優さんじゃ出来ないと思いました、けどこの映画で一番印象に残ったのはあの福田の団地での極貧の生活を表情をそんなに出さないでリアルに演じ切った窪田正孝さんでした、他の出演作も観てみたくなりました。

オススメです。

=あらすじ=

高校生の斉藤卓巳(永山絢斗)は、助産院を営む母子家庭のひとり息子。友人に誘われて行ったアニメの同人誌販売イベントで、あんずと名乗るアニメ好きの主婦・岡本里美(田畑智子)にナンパされる。里美は卓巳を自宅に招き、大好きなアニメキャラクターのコスプレをさせて情事に至る。以降、里美が用意した台本通りにセリフを言いながらコスプレセックスをすることが日常的になっていた。だがある日、卓巳は同級生の松永七菜(田中美晴)に告白され、里美との関係を断つことを決心する……。里美は、元いじめられっこ同士で結婚した夫・慶一郎(山中崇)と二人暮らし。執拗に子作りを求める姑・マチコ(銀粉蝶)からは不妊治療や体外受精を強要され、マザコンの夫は頼りにならず、卓巳との関係だけが心の拠り所だった。しかし二人の関係を夫と姑に知られてしまい、里美は土下座して離婚を懇願するが受け入れられず、代理母を捜すためにアメリカに行くことが決定する……。卓巳の親友・福田良太(窪田正孝)は、団地での極貧の生活に耐えながらコンビニでバイト中。店長の有坂(山本浩司)からは“団地の住民たち”と蔑まれ、共に暮らしている痴呆症の祖母は辺りを徘徊、新しい男と暮らしている母親には消費者金融の督促が後を絶たない。だがバイト先の先輩で元予備校教師の田岡良文(三浦貴大)が「団地から脱する武器を準備しろ」と

勉強を教えてくれるようになる。痴呆が進んだ福田の祖母を父親の病院に入院させる田岡だったが、彼もまた心の闇を抱えていた……。福田と同じ団地に住むあくつ純子(小篠恵奈)は、アニメ好きの姉が見つけたという写真のプリントアウトを七菜に見せる。それはコスプレした卓巳の写真だった。卓巳と里美がセックスしている写真と動画がネットでばらまかれていたのだ。学校でも瞬く間に写真が出回り、卓巳は家に引きこもってしまう。学校に来なくなった卓巳の家庭訪問に斉藤助産院を訪ねた担任の野村(藤原よしこ)を見て、卓巳の母・寿美子(原田美枝子)はお腹に子供がいることを見抜く。妊娠したことを誰にも言っていないという野村だったが、寿美子の助手・長田光代(梶原阿貴)の協力で野村の結婚が正式に決まる。そんなある日、寿美子が夜の神社を訪れると、そこには涙に濡れた卓巳がいた。息子の横で、目を閉じて手を合わせる寿美子。そして「生きててね。あんたも命のひとつなんだから、生きて、そこにいて」と卓巳に呟くのだった……


映画『ミッドナイトインパリ』 レポ [映画レポ]

ウディ・アレン監督作品『ミッドナイトインパリ』を観ました。
ラブコメ映画を観ながら様々な時代のパリの美しい風景が観れる良作でした。

物語は主人公のギルが12時の鐘の音と共に現れる偉大な芸術家が乗っている車に乗ってタイムスリップし彼にとっての黄金時代の1920年代のパリに行って自分が心酔してやまないアーティストたちと巡り合う奇跡の日々をつづった話なんですが、誰もが知っている様な画家・小説家・音楽家等が続々出て来てとても楽しかったです。
笑いも時代のギャップで笑うのではなくて、1920年代にパリにいた個性の強い芸術家達の特徴をちょっと誇張したり、彼らのあるあるネタだったりして欧米文学や絵画に明るい人はいちいち小ネタに笑ってしまうと思います。
出てくる芸術家達は例えばF・スコット&ゼルダのフィッツジェラルド夫妻、パーティでピアノを弾いているのがコール・ポーター。それにアーネスト・ヘミングウェイ(コリー・ストール)、パブロ・ピカソとその愛人アドリアナ(マリオン・コティヤール)、サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)にルイス・ブニュエル、T・S・エリオット、さらには当時のパリで多くの芸術家と交流し、相談相手にもなっていたガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)まで出て来ます。
個人的に一番可笑しかったのはエイドリアン・ブロディ演じるダリとの会話でした、シュールレアリズムの天才のダリと会話したらこんな風になっちゃうのかって言う感じで何を言っても結局話が『サイ』に持ってかれてしまうのが最高でした。

今まで書いて来たままだとギルが彼にとっての黄金時代の1920年代が良い時代で『昔は良かったなー』で終わってしまいますが、そうしないのがウディ・アレンらしいです。
ギルは途中で出会ったピカソの愛人アドリアナと恋に落ちアドリアナにとっての黄金時代19世紀のパリにさらにタイムスリップします(このシーンの前にアドリアナの手記を読んでドキッとする展開も良かった)、そこでロートレックやゴーギャンやドガと出会って『この時代こそ私の黄金時代』と言っているアドリアナの姿、さらに『ルネッサンス期こそ黄金時代だ』と言っているその時代の偉人達を見てギルは今は存在しない黄金時代に生きたいと望んでいた自分の姿をダブらせて、自身を見つめ直して行き、過去に縋らずに現在と向き合わなければいけないと反省します。

あと主演のオーウェン・ウィルソンの演技を観てると明らかにウディ・アレンの演技をしていました。ウディ・アレンが今まで映画の中で演じて来たダサいカッコしてオドオドしながら早口で嫌みを言って天の邪鬼な事をするっていうキャラクターそのままを男前のオーウェン・ウィルソンが演じていて知識人ぶるポール(こいつが本当に鼻につく奴で、特に個人的にロダンとカミーユの関係を間違って解説するのにイラっとします)とのウジウジした関係も面白かったです。

誰でも取っ付きやすくて誰でも楽しめる作品なのでウディ・アレン史上最大のヒットになったのもうなずけます、けどもうちょっとウディ・アレンの毒があっても良いかな?と思いました。

映画『テッド』 レポ [映画レポ]

映画『テッド』を観て来ました、めちゃめちゃ面白かったです。

監督はテッドの声とモーションキャプチャーでの演技もやっていて今度のアカデミー賞の司会もするセス・マクファーレンで、テレビアニメ『ファミリー・ガイ』、『アメリカン・ダッド』、『The Cleveland Show』の作者です。

アバンタイトルのジョンの友達いないエピソードから毒のある笑いが満載で、ユダヤ系の子が白人の子にボコボコにいじめられてるところにジョンが仲間に入れてって言っても白人の子ならまだしもいじめられてるユダヤ系の子にまで『あっち行けバカやろう』って言われる所から映画館爆笑でした。
ここで勘違いしていけないのはこの映画に出てくる人種差別ギャグは同時にそう言うことをしてるホワイトトラッシュや鼻持ちならない金持ちに『お前らみっともねえな』って言ってるということです(彼女のローリー職場の上司なんかキャラクター自体がそんな感じです)。
そう言った笑いを交えながらもジョンとテッドの絆の深さと同時にこの映画の肝のジョンと一緒にテッドもおっさんになって行く過程も描かれていて手際良く、かつ面白いオープニングでした。

とにかくおやじになったテッドは大麻吸うし・コカインやるし、仕事先の女の子と職場でやっちゃいけない事しまくるし(ここのオーナーが変人でまた面白い)、ローリーの部屋なのにコールガール呼ぶし、セクハラするしで本当にどう使用も無いんだけどミュージカルの『Avenue Q』の様にテッドと言うモコモコの可愛いクマの人形のフィルターを通る事によって誰でも笑えるギャグに見せる最高のキャラクターでした。
そんなテッドとズブズブは生活をしているジョンはいつまでも大人になりきれない35歳でローリーとの関係も大人になれないでいます、これだけだてタダの駄目おやじと駄目クマ人形のコメディー映画になってしまいますが、この映画はテッドとの『ある別れ』を通してジョンが大人に成長するある種の通過儀礼をして人が成長=大人になる話になっていてちゃんと見応えのある作品になっていました。
しかもその成長がオープニングから次の『雷兄弟の歌(Thunder Buddy Song)』でずっと語られて来た雷を使って表現されるのもニクい演出でした。

とにかくテッドの毒と下ネタ満載のギャグで終始映画館が爆笑でした、けどあのアメリカ人にしか伝わらない様なギャグ(アメリカのお菓子やアメリカの俳優をディスるギャグ)を日本人に伝わる様に翻訳した町山さんの言葉選びのセンスは凄いなーと観ながら感心してしまいました。
久しぶりに劇場が爆笑に包まれた作品でしたオススメです。

映画『ドライブ』 レポ [映画レポ]

前から観なくてはと思っていた映画『ドライブ』をやっと観る事が出来ました。
最高にスタイリッシュでスリリングでかっこいいクライムサスペンスで色気と狂気が感じられる映画でした。
監督はデンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフィンで日本では公開されてませんが「プッシャー」3部作、「ブリーダー」、「ブロンソン」というどれも切れの良い映画を作って来た監督です。

もう冒頭のアバンタイトルから一気に心を掴まれてしまいました、全編を通して無駄な演出が無くてキレの良い画的にも音楽的にも思わず『かっこいいー』と言ってしまうシーンの連続なんですが、それがアバンタイトルからビンビンに伝わって来ました。
普通の映画ならば車をフルスロットルに吹かしてビュンビュン飛ばしてカーアクションを撮るけれど、この映画のカーアクションは逃し屋としてのリアリティがあってオープニングでパトカーやヘリを振り切る為に普通のスピードで様子を伺っていたかと思うと(完全に止まることも)いきなりスピードを上げて振り切りに行ったりして緩急のあるカーアクションで、もうここで『かっこいいー』です。さらに運転してる時に顔を直接映さずにカーミラーに越しに映したり、ギアを握ってる手をしばらく映したりしてカッコ良さ+αです。
あと、あるエレベーターでのシーンがあるんですがそこでの超現実的なこの映画内で最もロマンティックなアイリーンとののシーンがあるんですが、その後に訪れる彼女を守る為にした目を背けたくなる様な強烈なバイオレンスシーンとの落差とその後のアイリーンの顔がなんとも言いがたい切ないワンシークエンスだったと思います。

物語は主人公のライアン・ゴズリング演じる寡黙で感情を表に出さないドライバーが愛する女性の為に戦うというよくある話で色々な映画へのオマージュが感じられる映画なんですが、その良くある話を監督のニコラス・ウィンディング・レフィンが自分のなかのイメージを男とマシンとポップミュージックを巧みに融合させてどこまでもフェティッシュにカッコ良く描いているので全く古くさく無く、色々な映画へのオマージュもストーリーテリングに完全に違和感無く組み込まれているので『かっこいいー』です。
映画の中に出てくる細かい衣装や小道具や音楽や流れているラジオなどの伏線を小気味好く回収して行く気持ち良さも最高でした。
オススメです。

=あらすじ=

天才的なドライビングテクニックを持つ寡黙な“ドライバー”(ライアン・ゴズリング)は、昼は映画のカースタントマン、夜は強盗の逃走を請け負う運転手というふたつの顔を持っていた。家族も友人もいない孤独なドライバーは、ある晩、同じアパートに暮らすアイリーン(キャリー・マリガン)と偶然エレベーターで乗り合わせ、一目で恋に落ちる。不器用ながらも次第に距離を縮めていくふたりだったが、ある日、アイリーンの夫スタンダード(オスカー・アイザック)が服役を終え戻ってくる。その後、本心から更生を誓う夫を見たアイリーンは、ドライバーに心を残しながらも家族を守る選択をするのだった。しかし、服役中の用心棒代として多額の借金を負ったスタンダードは、妻子の命を盾に強盗を強要されていた。そんな中、絶体絶命のスタンダードに助けを求められたドライバーは、無償で彼のアシストを引き受ける。計画当日、質屋から首尾よく金を奪還したスタンダードだったが、逃走寸前で撃ち殺され、ドライバーも九死に一生を得る。何者かによって自分たちが嵌められたことを知ったドライバーは、手元に残された100万ドルを手に黒幕解明に動き出す。だが、ドライバーを消し去ろうとする魔の手は、すでに彼の周囲の人間にも伸びていた……。やがて、恩人の無残な死体を発見したドライバーは、報復、そして愛する者を守るため、逃走から攻撃に一気にシフトチェンジするのだった……。

映画『フランケンウィニー』 レポ [映画レポ]

ティム・バートン監督の最新作『フランケンウィニー』を観に行ってきました。
これは賛否ばっくり分かれる作品だなー。

監督がディズニーのアニメーターだった1984年に発表した短編(ピノキオの再上映の時の同時上映作品として作成したが怖過ぎたのかお蔵入りになってしまった)を、ストップモーションアニメーションによる長編へセルフリメイクした作品です。
久しぶりにティム・バートン色全開の映画だったなーと思います。今までティム・バートンは『ナイトメアビフォアクリスマス』や『コープスブライド』等で今回の作品と同様にストップモーションアニメを作ってきましたが全て共同監督だったりしていましたが、『フランケンウィニー』は純粋にティム・バートン監督オンリーなのでティム・バートンのイメージした世界を作る事ができたのかなと思います。
純粋にティム・バートンの世界観を具現化した作品なので、その感覚に肌が合わない人は拒絶反応を起こすことがあると思いますが、それだけ高いレベルでイメージの具現化が出来るティム・バートンはやっぱり凄いです。

主人公のヴィクター君初めティム・バートンらしい手足の細いキャラクターの造形はもちろん、犬を飼ってる人なら誰しも共感するスパーキーの犬らしい仕草や動きや肉厚な感じの質感が何ともキュートでどこかダークなゴシック的なキャラクター達がとても魅力的でティム・バートンのアクの強い世界にも馴染みやすくしています。
物語の起伏はそこまで激しく無くて少し単調な感じがしますが、ラストに向かってのB級モンスター映画のオマージュ満載のドタバタ劇は観ていてとてもワクワク・ハラハラしますし単純に楽しかったです。
例えばヴィクターのクラスメイトのトシアキが自分の亀のシェリーを蘇らせた時に巨大化した時何か思いっきりガメラだし(ティム・バートンは昔から日本の怪獣映画ファンを公言してる)、太っちょのボブがプールにシーモンキーを入れて出て来たモンスターはグレムリンのギズモだし怪獣映画好きの人にはたまらない感じだと思います。
不思議ちゃんの飼っていた猫のおひげちゃんが雷を浴びてどんどん変身(メタモルフォーゼの方の変態が合ってるかな?)していく時のグロテスクだけどワクワクする感じとか怪獣の影が映ったりする演出とかヴィクターの両親がドラキュラの映画観てたりとか、随所に出てくるゴシックホラーやB級怪獣映画のお決まりのシーンが沢山あってティム・バートンが本当に楽しそうに作ってる感じがして個人的には大好きです。

ティム・バートンがヘレナ・ボナムカーターとジョニー・デップを使わないで作ったストップモーションアニメでしかも単独監督だったので久しぶりにティム・バートンが帰って来たって感じの大好きな映画になりました、ですがディズニー映画なのでファミリーで観れる様に最後はオールOKのハッピーエンドにしなければならなかったのは分かりますが、やっぱり最後はスパーキーは蘇らないであのジーンと来るセリフで終わって欲しかった(そしたらもっと心に残る作品になってたのかな?)です。
しかし単純にティム・バートンの世界に浸れてハラハラ・ワクワクできる作品なので、ぜひ観て下さい。

そう言えば同じディズニー映画で『生と死』をあつかった『バンビ』をオランダデーのシーンの背景の映画館で上映してたのはさりげないけど良い演出だなーと思いました。
=あらすじ=

小さな街ニュー・オランダに暮らす少年ヴィクター(声:チャーリー・ターハン)は、学校から帰ると屋根裏に閉じこもり、科学の実験や映画作りに熱中していた。そんな彼の隣にはいつも最高の相棒──愛犬のスパーキーがいる。ヴィクターの映画に主演することを誇りに思うスパーキーは、ヴィクターの母スーザン(声:キャサリン・オハラ)や父エドワード、そしてヴィクターと一緒に完成した映画を観ることが何よりの楽しみであった。ところがある日、不幸な交通事故がスパーキーの命を奪ってしまう。唯一の親友の死を受け入れられないヴィクターは、ジクルスキ先生(声:マーティン・ランドー)の科学の授業で習った“電気の実験”を応用して、家族にも内緒でスパーキーを生きかえらせることを決意。屋根裏の実験室でヴィクターは、雷のパワーも利用して、ついにスパーキーをつぎはぎだらけの“フラン犬(ケン)”としてよみがえらせる。だが幸せな日々が戻ってきたのも束の間、スパーキーは自分が死んでいることに気づかぬまま家の外へと出てしまい、その“ありえない姿”をヴィクターのクラスメイトや街の人々に目撃されてしまう。やがて、ヴィクターのアイデアを知った子供たちは次々にペットや動物をよみがえらせ、街は大混乱に陥っていくのだった……。


1982年に初監督作品した短編ストップモーションアニメ『Vincent』と1984年に作った短編の『フランケンウィニー』の映像です、両方とも名作だと思います、これを観てから今回の『フランケンウィニー』を観る事をオススメします。

映画『レ・ミゼラブル』 レポ [映画レポ]

『英国王のスピーチ』でアカデミー賞を受賞したトム・フーパー監督の最新作『レ・ミゼラブル』観てきました。
間違いなく今までのミュージカル映画の次元を超えた大傑作です。終映後に拍手が巻き起こりました。

今までに無いほどの映画とミュージカルの融合でした。
舞台では各曲ごとにに時間が決まっているので入れる事の出来ないセリフを間に入れて曲やドラマをより豊かにしたり、映画では間延びしすぎてしまう曲をショートバージョンにアレンジしたり、その逆に歌詞を付け加えたり変更したり、ミュージカルを映画に融合させる為に必要な事だったし見事にストーリーテリングが隙なく絞り込まれてあるのでレミゼファンをこじらせてる自分も納得でした。
また、舞台で描けなかった部分を入れていて原作により忠実な描き方をしていたと思います。例えばフォーシュルバンが出て来たりマリウスのおじいさんが出て来たり、何と言っても象が出て来た時は『おーーー』って思いましたし、それぞれのキャラクターの描き方が本当に見事でした、特に個人的にガブローシュの真の革命家の気高さが描かれていたのが嬉しかったです(その他にも色々細かくありましたが、そこは劇場でご確認下さい)。

新たに加わった物もあってバルジャンが歌う”Suddenly"も素晴らしかったです。
まず最初にバルジャンがコゼットと言う生きる希望を手に入れて新たな人生を始める時に歌われます、そしてその曲をバルジャンがマリウスとコゼットの幸せの為に旅立つ自己犠牲のシーンで流すと言う涙腺崩壊演出でした。

光の使い方が凄くて、バルジャンの独白のシーンで新しい人生を生きる決意をして前に歩き出した時に今まで暗く光りが当たらなかった顔にカメラワークだけで光が当たって音楽と完全にシンクロした時は背筋がゾクゾクしました。

オリジナルのミュージカルへのリスペクトも忘れていなくてバルジャンのオリジナルキャストのコルム・ウィルキンソンを司祭役で登場させるところも監督のトム・フーパーも相当なレミゼファンだと思いました(映画のディテールの細かさからもヒシヒシ感じました)。

最後のピープルソングのアンサンブルの数が凄いし、しかもあれがWestendで活躍している俳優達だから合唱の素晴らしさが尋常じゃなかったなー、キャストの熱演をぜひ劇場で体感して下さい!!。

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