新国立劇場『三文オペラ』 レポ [観劇レポ]

新国立劇場に『三文オペラ』観に行って来ました。

この『三文オペラ』は現代演劇の最大の変革者の1人と言われるドイツの劇作家であるベルトルト・ブレヒトと作曲家のクルト・ワイルがジョン・ゲイの「乞食オペラ」を基に1928年にベルリンで初演した作品でその時はキャバレーやレビューの芸人を起用したキャスティングで1年以上のロングランを記録した大ヒット、その後ヨーロッパ各地で上演され33年にニューヨークで上演(その時は12ステージで閉幕)55年にはオフ・ブロードウェイで再演されその時にはワイルの奥さんのロッテ・レーニャも出演して2611回のロングランを記録したミュージカル・コメディーの始祖と呼ばれる作品です。

題名に「オペラ」とありますが厳密に言うとこの作品はオペラでもミュージカルでもなく芝居の中に登場人物の感情の高まりとは関係ない場面でも独立した歌が入る日常性を異常化させて、芝居を脱習慣化させるブレヒトが提唱した『異化効果』を取り入れた演劇なので、楽曲を通してのパフォーマンスや俳優が役を離れてその役や物語をメタ的に批判したり言わゆる「第四の壁」を超えて観客を巻き込んだり、身振りや小道具を取り入れた視覚的にも特異な演技をする事によってその場面や登場人物を切り取り拡大し文字通り通常とは異なったものと観客に認識させ驚きや好奇心を作り出し観客が舞台上の出来事に感情を同化しない様にする方法なので独特のリズムがあり、感情移入するというより舞台を観察して考えると言った面白さがありましたし、楽曲の素晴らしさと陰と陽が同居してる世界観・パフォーマンスで舞台に猥雑さや緊張感を醸し出していていました。

遊び心のある台詞回しやメタ語りや観客を巻き込む演出でエンターテイメントにしながらも底辺の人達にスポットを当てて彼らの歪みや姑息さずる賢さを描く事で強烈に感じたのは生き物としての人間のそういった面を全て含めての『生』であり、立川談志の言葉を借りればこの作品も業の肯定であると感じました。
登場人物全員がもつ歪み・醜さを描き出しかつ生きる姿を観せていった後にあのふたつのラストを迎えて『許し』や『正義』にさえ疑いを向け観客の日常に入り込み考えさせる力は初演から90年近く経っても世界中で上演され続ける傑作たる所以だと思いました。

キャストのみなさん素晴らしかったですが、池内さんのメッキースは人たらしなのも納得な全身から出る色気と荒々しさでハマリ役だと思いましたし何と言っても今回はソニンさんのグイグイ持ってくパワーに驚きました(『モーツァルト!』のコンスタンツェも今から観るのが楽しみです)。

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